[Introduction] 國府理について<br>About “KOKUFU Osamu”

[Introduction] 國府理について
About “KOKUFU Osamu”

◎國府理について

國府理(こくふ・おさむ 1970‒2014)は、乗り物の形態をモチーフに、実際に稼働させる動力と機能を備えた大型の立体作品を制作・発表。自動車や機械などの様々な工業製品を解体して素材とし、それに見合う手製の部材を作り出し、國府は緻密な手技から重機を扱う作業までを自らの手で行う彫刻家でした。
近年では、乗り物に植物や生態系を組み合わせ、自然と人間の営みの構造を反転させて寓話のように物語る作品を提示。「移動」と「循環」をテーマに創作スケールは飛躍的に拡大し、現実世界に「もう一つの世界」を対峙させて人々を魅了しました。
機械や植物各々のエネルギーを考察しながら、機械文明に埋もれゆく現代社会をアイロニカルに表現する一方で、幻想的な風景や誰のものでもない土地を乗せた作品は國府自身の「ここではない何処か」を希求する心の受容器でもありました。國府は、常に「今・ここ」から、感情を持つ私たち人間の複雑さと解決が困難な世界にも真摯に向き合い、「未来」を模索していました。

國府は、幼少の頃に全盛期を迎えたスーパーカーブームの只中で、車輪の付く乗り物に強い憧れを抱き、小学生の頃から自動車やバイクのスケッチを描き始めるようになりました。街中で見かけた乗り物の複雑な機械部品の形状を瞬時に細部まで記憶し、精緻なドローイングで描き起こせるほどの鋭い観察と描画力を持ち、独自のデザイン・設計美を追求していくことが日課となっていきました。中学・高校生になり、廃棄された自転車やオートバイなどの改造や組み立てを繰り返すうちに乗り物の構造や工学的知識も習得し、京都市立芸術大学に進学後は彫刻科を専攻して現代美術家・野村仁に師事。そして1990年代初頭より本格的に作品発表を始めるようになります。
2回生にしてエンジン動力による自立型の機械彫刻《自動杭打ち機》(1990)を完成させ、1994年にはアートスペース虹(京都)での初個展を開催。ガソリンエンジンで後方のプロペラを回す《プロペラ自転車》(1994)、48V-800Wの電動モーターで走る《電動三輪自動車》(1994-04)で、ユニークな乗り物メーカーのように自らの表現を『KOKUFUMOBIL』と名付けて発表しました。
同時期の1993年より、京都市立芸術大学の彫刻・デザイン専攻の学生・OBと共にソーラーカーによるアート・プロジェクト「Solar Power Lab.」の主要メンバーになった國府は、ある目的地に向かって操縦し、風景の中を疾走することで初めて完成する動く彫刻の存在を発見します。様々な異なる技能を持つメンバーが集まる中、國府は主にシャーシ設計とドライバーを担当。実際に乗って走行できる車としてソーラーカーをゼロから設計・製造し、鈴鹿サーキットや各地でレース出場しながら機能・デザインの精度を高めていき、さらには自分たちが作り上げたソーラーカーでアメリカ大陸横断(HAAS project、1999年)を果たすまでとなった「Solar Power Lab.」は、プロジェクト型アートの先駆けでもありました。
この「Solar Power Lab.」での経験を基点に、國府は独自の設計思想を「KOKUFUMOBIL」としてより明確化し、モノとしての本来の機能を有しながらも実用性の枠を超えて自由に動き回れる彫刻を造り出していきます。そのコンセプトを象徴する作品として制作されたのが、車輪とスクリューが付いたサーフボードのような流線美の《KOKUFUMOBIL》(1994)。國府は、実際に走らせる喜びや「ここではない何処か」へ連れて行ってくれる、心の期待と広がりを精巧な造形と共におさめて、プロジェクトでもなくオブジェクトでもない、新たな地平に自らの道を切り拓いていきました。
タグボートのようにコンパクトなボディで1tの重量物を牽引できる《Tug Tricycle》(1995)や、エンジンの気持ちになれる《人力自動車》(1997)、スピード化する社会との狭間に温度によって時差をつくり出す《自動車冷蔵庫》(1998)など。國府は、日常と繋がりながらも非日常的に存在し得る世界を思い描いて、人々の想像力に働きかけて新たな可能性や夢を拓く能力を持つ未来の乗り物を2000年代前半にかけて数多く制作していきました。

乗り物への憧憬を出発点とする國府の表現は、時代の変化に伴い次第に環境・エネルギー問題にも焦点を当てていくようになります。ヨットの帆を付け風力で自走する《Natural Powered Vehicle》(2004)や《Sailing Bike》(2005)、自動車の排気ガスを貯蔵・計測する《CO2 Cube》(2004)、ハンドルに手をかざし念力でプロペラを回して走る《Mental Powered Vehicle》(2006)は、エネルギーを消費し続ける文明社会の未来像について思索を促す作品です。また、物理的な移動が世界の広がりを暗示しなくなった高度情報化社会において、國府は乗り物に対する意識を人為と自然の関係を問い直すメタファーへと移行させていきました。

降雨装置を付けて車内を熱帯林に変貌させた《雨林車》(2007)、上下反転させた自動車の底面に苔を敷き詰めギアナ高地のような未踏の原野が広がる《虹の高地》(2008)、自動車の部材や鋼材を用いプロペラを付けて飛行するクジラの化石《ROBO Whale》(2008-2009)は、文明崩壊後の人間がいなくなった未来世界の風景を想起させます。そして、植物を地面から切り離して生態系ごと樹木を円筒型の温室に封じ込めた《Typical Biosphere》(2009-2010)をはじめ、地上から7m上空に浮遊する無人島のような《てっぺんの庭》(2009)、車輪の付いたパラボラアンテナが苔庭を乗せて旅をする《ParabolicGarden》(2010)、地面から切り離した地表に種を撒き自動制御で雨を降らせる《砂漠の庭》(2010)や《空の庭》(2012)など、作品の姿形も円形の庭や温室へと、次なる展開を始めていきました。

植物を取り入れることは、同時に複雑な生態系を人工空間へと閉じ込め、生命を維持する装置や機械を作り続ける事の始まりでした。創ることに純粋な喜びを感じる一方、エネルギーの享受と引き換えに人間の創造行為が宿命的に背負ってしまった業とも言える矛盾と葛藤に身を置きながら、國府は科学や経済の尺度では計りきれない人間社会の構造を浮き彫りにしていきます。
制御不能かつ膨大な生の条件と向き合い続ける中、東日本大震災と福島第一原発事故を受けその翌年、國府は堅牢な水槽の中で自動車のエンジンを稼働させ、熱源を視覚化した《水中エンジン》(2012)、セイルを組み合わせた風車発電で植物を育てる試みを提示した《風の庭》(2012)を発表。
そして2014年、国際芸術センター青森の大自然に囲まれた展示空間を反転した巨大温室と見立て、限られた空間の中で乗り物や機械と自然が融合・対立・循環を繰り返す様々な現実の情景を入れ子状に縮図化しながら、地球規模の作品《相対温室》を制作しました。

|略歴|
1970 京都府生まれ
1993~ ソーラーカーによるアートプロジェクト「Solar Power Lab」に参加
1995 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了(彫刻専攻)
2014  4月29日 永眠 享年44

|主な個展|
2014 國府理展 相対温室 (青森公立大学国際芸術センター青森)
2013 國府理 未来のいえ (西宮市大谷記念美術館、兵庫)
2012 國府理 ここから 何処かへ (京都芸術センター)
2012 國府理展 水中エンジン (アートスペース虹、京都)
2010 國府理展 Parabolic Garden (アートコートギャラリー、大阪)
2008 國府理 move to moving (松本市美術館、長野 *松本市美術館・信州大学合同企画)

|主なグループ展|
2013 六甲ミーツ・アート 芸術散歩2013 (六甲カンツリーハウス、神戸・兵庫)
2013 あいちトリエンナーレ2013 (中央広小路ビル、名古屋・愛知)
2012 福島現代美術ビエンナーレ2012-SORA- (福島空港、須賀川市/玉川村)
2011  TRA: Edge of Becoming (Palazzo Fortuny、ヴェネツィア、イタリア)
2009 神戸ビエンナーレ2009招待作家展 LINK しなやかな逸脱 (兵庫県立美術館)
2009 エコ&アート-アートを通して地球環境を考える-近くから遠くへ(群馬県立館林美術館)

|コレクション|
西宮市大谷記念美術館、和歌山県立近代美術館、千島土地株式会社

KOKUFU_Osamu_images

[※Text: 2015年7月に更新 (アートコートギャラリーによる2014年9月のテキストより一部編集を加え掲載しています。)]

 

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